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編集長のつぶやき


2010年11月号 「がむしゃら」

 一瞬、時間が止まった様な静けさの中にひときわ響き渡った歯切れのよい声。
「アウト~!」「選手集合!」
そして、息を吹き返したかのようなざわめき。あるチームが、全てをかけた夏が終わった瞬間でした。
 その最後の打者となったのは、主力の3年生ではなく、経験も浅い2年生の女の子でした。最後の場面で代打に起用されたのは、彼女の人一倍強い負けん気にあったと思います。案の定、打席に立った彼女はその状況ながら臆するどころか鋭い視線を相手投手に発していた。「何かが起こる!」そんな空気を作り出していた。しかし結果はピッチャーゴロ…。
 誰もが天を仰いだ。だが、彼女には「あきらめる」という気持ちはみじんもありませんでした。次の瞬間、ボールはすでに1塁に送球されていたにもかかわらず、練習でも試合でも見せたことのない生まれて初めてであろう…
「ヘッドスライディング」。唖然…。
不格好だが、不思議と格好いい。そしてその強い気持ちのプレイが、時間を止めた様な静けさを生み、見る者全てをしびれさせた。
 彼女は、しばらく動く事も立ち上がる事もできなかった。ようやく先輩に抱えられ、起き上がったその右手には強く強く握りしめた黒土があった。
 私は「がむしゃら」を見た。
「がむしゃら」彼女が見せた、感動の根拠とも言えるワンプレーが多くの人の心を動かせた。同期の友人には「やる気」下級生には「尊敬」主力の上級生には「感謝」父兄には「感動」。それぞれの心に感じたものは様々だが、チームにとって来年の夏の目標は一つに絞られ、そこに向かうすばらしいスタートがきられた。
 
 あれから1年後、2010年7月…。
1年間、あの時の気持ちは途切れることなく、選手(子供たち)は図りきれないほどの、汗・汗・汗…。拭いきれない程の涙・涙・涙…。そして笑顔と…。大きな目標に向かって喜怒哀楽を重ねた。それに対して父母も同じ姿勢で、同じ思いで環境を整え応援し続けた。今思えば、一瞬の出来事のように思えます。
 そしていよいよ最後の試合…。偶然にも同じ相手、同じグランド…。県大会出場をかけた最終回…。無得点ならば試合が終わってしまう。ツーアウト…。
 最後の打席に入ったのは、4番・キャプテンに成長した、あの時の女の子。
 一年間自分のことよりチーム・仲間を大切にし、みんなを引っ張ってきた、あの時の女の子は、女の子ではなく一人のアスリートに変わっていた。
 次の瞬間、昨年と全く同じ光景が目の前に…。「ヘッドスライディング」「アウト」「選手集合!」
ただ違った事は彼女はすぐに立ち上がり、自らも「集合!」と声をかけ、気持ちの良いさわやかな笑顔を見せた。キャプテンとしての責任を試合終了の礼まできちんと勤めた。
 しかし最後に父母応援団の前に整列し礼をした瞬間のこらえきれず溢れ出した涙。そして、強く握られていた右手には、やはり黒土が…。その光景とここに来るまでの過程は私達にとっても忘れられない一生の思い出という宝物となりました。
 彼女が見せた「がむしゃら」は友人・父母を一つの「輪」にしてくれました。
そして勝利以上に何が大切か、物事をやり遂げるプロセスを私は学びました。
                                                編集長 中村和久


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