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るるりっこ


2016年1月号  第20話「最後の試合、そして…」

 2010年7月。夏の日差しが厳しく照りつける中、答志中ソフトボール部は、負けてしまえば3年生引退と共に人数不足のため、廃部になってしまうかもしれない大会に望んでいました。
 一回戦は見事勝利し、いよいよ決勝戦。相手は文岡中。県大会出場か廃部か。答志中の選手・父兄も緊張を隠せずにいました。
 これまで小学校時代に、県大会優勝や全国大会優勝の経験を持つルルとリコも、地区予選とはいえ相当なプレッシャーを感じているようでした。
 「終わらせたくない…」
勝つとか負けるとかではなく、ただそれだけでした。
 「集合!」 
主審の声が響き渡り試合開始。リコはキャッチャー、ルルはサードで出場しました。
 試合序盤戦はリコの姉マユの好投もあり、投手戦で均衡状態が続き0対0。力の限り応援する答志中父兄も「よし!行けるぞ!」と勢いづきました。
 しかし中盤に差し掛かった4回…ついに文岡中打線に火がつき、さらに勢いに乗った文岡中は5回まで一気に7点を奪いました。
 そしてその裏の答志中の攻撃。この回で1点でも取らなければコールドゲームで負けてしまう状況。これまでルルもリコも強豪文岡中に思うようなバッティングもさせてもらえず不完全燃焼な状態でした。試合は大詰め、ツーアウトランナー無しバッターはキャプテンであり、ルルの姉のルイ…。
 ベンチ…「ルイ~!いつものバッティング~!」      「頼むよ~!頼むよ~!」
 「ルイ」の声が何重にも重なって叫ばれました。
 父兄…「ルイ~!大丈夫!大丈夫~!」
さらに「ルイ」の名前が連呼されました。そして「大丈夫」という言葉…。ルイ・ルルの母が特にこの言葉を強く伝えようと身を乗り出し、必死にルイを応援していました。
 「大丈夫」という魔法の言葉。これまでの苦難を一番良く知っている母親だからこそ伝えたい言葉であり、その言葉から子どもは「安心」を得られる…。まさに魔法の言葉。
 ルイ…「うん。」 とコクりとアゴを引くように頭を下げました。大観衆にも関わらずルイは瞬時に母を見つけだし、目線を合わせました。
 そして次の瞬間にはバッターボックスから相手ピッチャーに鋭い視線を投げかけました。ルイは迷わず初球を叩きました。痛烈な当たりでしたがショート真正面…。ショートは難なくさばき1塁へ送球。ルイは必死に走りました。みんなのこれまでの努力のために、応援してくれた父兄のために、自分たちと一緒にソフトをやると決めてくれた妹ルルそしてリコのために…。そしてヘッドスライディング!一瞬の静けさがありセミの声だけが響く中…
「アウト~!試合終了~!」
審判の声が響き渡りました。泣き崩れる者、勝利を喜ぶ者、様々な思いがグランドにありました。
 この瞬間から答志中ソフト部は先の見えない状況に追い込まれたのでした。廃部なのか…?
 一夜明けた翌日の朝の事、リコの姉マユは父親を誘い中学校のグランドに向かいました。
 マユ父・・・「マユ、忘れ物か?」
 マ ユ・・・「忘れ物・・・そう、そんな感じかな。」
グランドに着くとマユは土を盛ったバケツとスコップを持ってまっすぐマウンドへ向かいました。
 マユ父・・・「どういうこと?」マユに尋ねました。
 マ ユ・・・「私の癖のついたマウンドだと、次に       ピッチャーする子が使いにくいやん」
かぼそい声、その瞳からは大粒の涙がこぼれていました。だだっ広いグランドにはセミの声だけがやけに響き渡っていました。
 「今までありがとう。そして…終わってない!島のソフトは終わらせてはいけない!」という娘の意思をマユ父はしっかり受け止めたのでした。


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