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るるりっこ


2015年1月号  第8話「覚悟」


 「せーのっ!おはようございまーす!」
 声を合わせて、少し恥ずかしげに挨拶するルルリコとサキ。するとグランドの奥にいたソフトボールクラブの子ども達が三人に気づき、
 「おはようございま~す。」
 三人は顔を見合わせて少し安心した様子でグランドのワキを遠慮深そうに通り、みんながいるところへと歩み寄った。みんなが集まっているところに到着すると、監督・コーチ陣も柔かに「おはよう!さあ、今日からがんばろうな」と声をかけてくれた。
 そして、あと数名の部員が到着し全員が揃ったところで、監督を中心とした円陣が組まれ、新入部員のルルリコとサキの自己紹介が始まった。三人共なんともかぼそい声での自己紹介。島の方言が出ては恥ずかしいと思ったのか、使ったこともない標準語っぽい言葉でなんとかその時間を乗り越えた。そして三人の冷や汗が引くまもなく監督の話があり、早速練習が始まった。
 当時、部員は6年生3名、5年生はルルリコの2名、4年生は6名、3年生はサキ含め6名、2年生4名、1年生1名の合計22名。9月初旬の三重県選手権が終わっていたため、実質6年生は引退しており、6年生は下級生の指導を中心としていた。
 チームは新チームになり11月に行われる新人戦に向かって、且つ、優勝チームだけが出場できる春の全国大会を狙って一生懸命頑張っている時期だった。創部して2年目の若いチームということもあり、これまで公式戦ではなかなか勝利する事が出来なかったが、これから全国制覇を目指すという高い志を持っていた。
 そんな事情を知らずに入部したルルリコだが、たった二人の5年生という事で、必然的に最上級生としてチームを引っ張っていく立場になった。当然のことながら最上級生と言っても、ソフトボールの経験のないルルリコよりも、既に入部していた下級生の方が実力は上であった。
 このチーム事情と、いきなりの自分達の立場と下級生との実力のバランスに、ルルリコは初めて、「プレッシャー」というものを感じるのだった。
 そんなプレッシャーの中、入部初日の練習は容赦なく丸一日続いた。これまでに見たことのない繊細な技術指導と、男子顔負けの厳しさ、それについていこうと必死に声を張り上げながら頑張る子ども達。新入部員の三人はただただ戸惑いながらも着いていこうと頑張っていた。
 その様子を見ていたリコパパは「これは、本当に全国も夢じゃないぞ」と思わずつぶやいたそうだ。
 やがて、練習が終わり「すごいなあ!小学生の女の子でもこんなに練習するんや」と驚いていたルルリコの父母のところへ監督が話しかけてきた。「9月の最終週末に静岡に遠征に行くんですけど行きます?それとそれまでに日帰りの名古屋遠征もあるんですけど。」「遠征!?・は・はい」とルルリコ父母。ここに来ること自体が遠征のようなもの。しかも県外に泊まりで。初めてのことだらけで唖然とし、戸惑いながらも、とりあえず返事をするのが精一杯だった。
 初日を終えたルルリコは、当然疲れた様子。帰りの車中では練習だけだはなく、置かれた立場のプレッシャーをどうこなしていくかに戸惑っていた。
 帰宅後、夕食を終えたリコは、自分のグローブを脇に挟み、もう一個のグローブを父に差し出した。
 ルルは父を浜に誘った。その右手にはソフトボール用のバットを握りしめていた。これが二人の出した答えでもあり、覚悟でもあった。


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