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るるりっこ


2016年4月号  第24話「幸せの価値」

 部活で男子に交じっての野球と、贅沢にもたった3人でナイター施設を使ったソフトボールの練習をこなす日々。彼女達に見えていたのは、「来年、再来年に人数が 揃った時に県大会で優勝する!」という極めて可能性の低い夢物語の目標でした。
 しかし、可能性があろうとなかろうと彼女達にはそんなこと関係ないようでした。
「とにかく前へ!」という気持ちで、その夢物語を親を含めたチームで楽しんでいました。
一方、一年生のルルと リコにはもう一つの夢と目標がありました。それは毎年3月に開催される「都道府犬対抗中学女子ソフトボール大会」に出場する事でした。
しかし、この大会に選手として出場するには、高いハードルがありました。それは三重県内の我こそはという志願者が集まっての選考会があり、それをクリアした者だけが出場できるという狭き門なのです。いわゆる三重選抜メンバーです。
ルルとリコがどうしてもこの選抜にこだわり、メンバーに入りたい理由には小学校時代の仲間やライバル達と「中学になったら県選抜に選ばれてまた一緒に礎;ふとボールしよな!」という約束があったのでした。その事は、先輩のヒナさんも知っていたので ナイター練習では、ルルとリコを中心に練習させてもらう場面もあり、親も含めてまずは二人の目の前にある目標に全力でサポートしました。
三重県選抜を決める選考会は、第一次が8月末に行われ、そこで30名に絞られます。次にその中から11月に選ばれることになります。ルルとリコの両親も、 なんとしても二人が三重選抜に選ばれる事を祈っていました。それは、まともな人数で練習できないでいる二人の心の中からソフトボールの火が消えてしまわないかという不安もあったからです。
それほど両家の両親とも、ルルとリコがソフトボールをする姿に魅了されていたのでした。
 第一次選考会まで1か月もない中、ひょんな話が浮かび上がってきました。それ野球部が毎年参加している「離島甲子園」にルルとリコも参加させてくれるというお話でした。ルルの両親もリコの母も「ええやんか~、連れてってもらいない!」といううれしい思いでしたが、ただ一人 リコ父だけは猛反対の姿勢を見せていました。なぜなら、離島甲子園が開催される日程が第一次選考会とほぼ同じ時期だったからです。しかも、その時の離島甲子園の開催地は愛媛県で約1週間の遠征になるというものでした。
 リコ父は、「ソフトの練習ができやんし、意識が薄れる」 という不安があったのでした。当の本人たちはというと、選考会も大切だけど野球部でお世話になっていることもあり、やはり離島甲子園には出場したいという意思をあらわにしました。リコ父はみんなに押し切られた形で、離島甲子園へ行く事を渋々了承しました。
 8月18日。 選考会を10日後に控えて愛媛へ出発。両家の両親も、リコ父の不満な気持ちも持ったまま愛媛まで応援について行く事になりました。
 大会では、ルルリコも試合に出場し、また女子ということもありメディアに取り上げられるなど、その時間を意気揚々と楽しんでいました。その 様子にリコ父は「チヤホヤされて…、来週は選考会なのに…。」と心でつぶやいていました。
 試合後、両親達は娘たちの顔を見ようと宿舎へ向かうことにしました。宿舎は海沿いの小高い丘に建つ大変雰囲気の良い場所にありました。離島のなんとも景色の良い海沿いを走っていると、 「あっ、あそこやな!」ルル母が宿舎を見つけました。しばらくすると、誰かが海沿いの堤防でキャッチボールをしている姿が見えました。「ルルとリコやな!」とリコ母。速度を緩めさら近付くと、二人もこっちに気付き満身の笑みで両手を大きく振ってきました。大きく振っている左手には グローブ、そして右手にはしっかりソフトボールを握っていたのでした。
 その光景に、両親は思わず笑みを浮かべずにはいられない様子でした。リコ父はグッと拳を握りしめ、自分の小ささ、子どもを信じきれていない自分に恥ずかしさを覚えたのでした。その時、ルル母がリコ父にポツリ。 「リコパパ…ピークってなんやろな。今が人生のピークなんやろか?」幸せの価値と期間を問いかけられたリコ父だったのでした。


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